サイトメガロウイルス(CMV)腸炎
CMVはヘルペス科のDNAウイルスでヒト以外には感染しませんのでヒトが唯一の感染源です。熱に弱く細胞外では不安定でヒトからヒトヘの伝播では濃厚な接触が必要です。わが国では小児期までの不顕性感染が多く、終生持続感染します。思春期以降に初感染した場合は伝染性単核球症を発症します。発熱、肝機能異常、肝脾腫、異型リンパ球出現などを呈します。持続感染の様式は慢性感染と潜伏感染があります。慢性感染は感染性ウイルスが持続的に産生される状態で症状はありませんが、唾液等にウイルスを排出します。潜伏感染はウイルスゲノムが骨髄由来の単球、顆粒球前駆細胞に潜伏して存在するが、感染性のウイルスは産生されない状態です。宿主の免疫力の低下により再活性化します。CMV腸炎は宿主の免疫力の低下により血管内皮細胞でCMVが再活性化増殖して炎症細胞と血管内皮細胞の巨細胞化により血管内腔が狭小化して粘膜に虚血変化をきたして潰瘍が生じるとされています。潰瘍性大腸炎に合併するCMV腸炎は既存の潰瘍にCMVが二次的に感染する機序も考えられています。宿主の免疫力の低下の原因は免疫不全を呈する疾患やステロイド、抗がん剤、免疫抑制剤の使用が多いですが、意識障害や腎不全、術後等の全身状態の悪化例など相対的な免疫不全状態でもCMV腸炎発症例がみられることにも注意が必要です。発熱、下痢、腹痛、血便、体重減少、貧血、低蛋白血症等を呈します。内視鏡所見は終末回腸や右側結腸に好発する打ち抜き様潰瘍が最も特徴的は所見とされていますが、それ以外にも全大腸の多彩な部位に非特異的な内視鏡像を呈します。打ち抜き様潰瘍は境界明瞭な円形の断崖状に下掘れする潰瘍で、潰瘍の中にさらに深い潰瘍を認める二段潰瘍も特徴的ですが、浅い不整形の潰瘍や、潰瘍形成のないアフタやびらんのみの所見等多彩な病変の報告があります。CMV腸炎の診断は潰瘍底など病変部位の生検で、血管内皮や間質に特徴的な病理組織像を確認します。ウイルス感染細胞の核にふくろうの目に似た巨細胞封入体が観察されますが陽性率が低いです。CMVモノクローナル抗体を用いた免疫組織学的染色では細胞質のCMVも検出されるため感度が上昇します。